ムジカノーヴァ2022年8月号に演奏会批評が掲載されました
▼以下記事内容▼
〜関西の演奏会から〜
髙木知寿子
様々な演奏会の経験を積み、ベテランの域にある髙木知寿子の「激情のショパン」と題された、オール・ショパンのリサイタルである。昨年開催されたショパン国際ピアノ・コンクールのライヴ配信の影響からか、ショパンの人気がより高まっている昨今であるが、実際に、ピアノのあらゆる技術と音楽的に洗練された多彩な表現が求められるショパン作品ばかりを演奏することは、想像以上のエネルギーを要することである。それに果敢に挑戦し、最後まで一定のレヴェルを保ち続けたことは賞賛に値する。
まず、《ノクターン》の作品9-1と嬰ハ短調遺作、《幻想即興曲》と、ショパンのなかでもとりわけ親しみやすい曲から始まる。《ノクターン》作品9-1では中間部のテンポが比較的速く、細かい表情というより、流れを重視した演奏。嬰ハ短調遺作ではまだ少し硬さが感じられたが、旋律を優美に歌わせる。《幻想即興曲》の速いパッセージでの音の粒立ちが聞こえにくかったのは、ペダルの加減によるものだろうか。その後の《スケルツォ第2番》作品31は、フレーズを大きくとらえた大胆な弾きっぷりから手慣れた印象を受けた。《スケルツォ第4番》作品54では、最初でこそ和音の連なりの速いパッセージを思うように処理できないようでもどかしかったが、次第に身体が音楽に適応していくような柔軟性が感じられ、奏者本来の伸びやかさが音楽に表出されてきたのではなかろうか。豊かな生命力のある演奏であった。
後半の《ソナタ第3番》は全体に高度な技術に裏打ちされた過不足のない安定感のある演奏で、終楽章の推進力も見事であった。 ただ、これだけの大曲でもあるので、奏者ならではの強いこだわりなど、表面的な形を超えた精神的な表現が、もっと自由に聞こえてきてもいいような気がした。
平和への祈りが込められたアンコール曲の《ノクターン》作品9-2は、大変美しく響いた。それぞれの曲に異なった魅力をもたせた、ショパンの稀有な才能が十分に伝わる演奏会であった。
(4月23日、 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ) 吉田裕子