ムジカノーヴァ2015年5月号に演奏会批評が掲載されました

▼以下記事内容▼

〜関西の演奏会から〜

髙木知寿子と仲間たち

ピアニスト髙木知寿子を中心とするロマン派の室内楽の問に、和太鼓作品を挟んでの 「和と洋の共演」。まず、ウクライナ音楽院教授アナトリー・バジェノフとのフランク〈ヴァイオリン・ソナタ〉。バジェノフはやや線が細く、繊細な表現に重点を置いているようだ。スケルツォでは激しく切り込むピアノに対し、安全運転のように聴こえる箇所もあった。緩徐楽章のレチタティーヴォは一転して雄弁で振幅が大きく、密やかなコラールと対比づけられる。ピアノのアルベッジョもきれい。終曲は平和なロンドで幸福感に満ち溢れていた。野田悟 〈転生〉は野田の独奏で4つの太鼓を叩き、単純なリズムから頂点まで登り詰める。気迫の打撃は転生のしるしを刻んでいるのだろうか。そして、イワン・クーチャー同音楽院教授とのブラームス〈チェロ・ソナタ第1番〉。クーチャーのほの暗い高音と骨太のバス、そして何より誠実な姿勢が魅力的だ。とりわけ再現部第1主題の憧れの表情と推移、後半の高揚が美しい。それを引き継ぐ髙木のピアノも。メヌエットの優雅な旋律とトリオのブラームスらしい渋い歌、フーガの精緻な声部の絡みなど、実に素晴らしい。
後半、髙木克美〈太極鼓〉は髙木と野田2人が大太鼓を叩く。リズムは変化しながら一貫したクレッシェンドを形成。2人の背反・和合が強烈なエネルギーを発散する。最後のメンデルスゾーン〈ピアノ・トリオ第1番〉が当夜の白眉。最初はアンサンブルに不安があったが、次第にしっくりしてゆき、冒頭楽章の再現部以降はまったく間然する所がない。コーダの華麗なピアノも見事だ。特に第2楽章はヴァイオリンとチェロ、それぞれと両者の絡みが(そしてピアノも) とても美しく、まさに美の極致。スケルツォの軽やかなppと劇的強奏から終楽章結びの息詰まる高揚まで、めくるめく感動を呼び起こした。

(2月18日、 京都府立府民ホール アルティ) 横原千史